君影草~夜香花閑話~
 結局何も答えられなかったのだが、あれからよく考えてみても、やっぱりわからない。
 今、深成のことを考えることもないのだ。

「長老」

 ややあってから、真砂が口を開いた。
 ぼんやりと外を見ながら続ける。

「人を好きになるというのは、どういうことだ?」

 長老はゆっくりと、視線を真砂に向けた。

「捨吉に聞かれた。俺は、深成を好いていたんだろうか」

 言いつつ、真砂は僅かに驚いた顔をした。
 口に出して初めて、深成を名で呼んだことが一度しかないことに気付く。
 腕を失う直前だ。

 あの行動も、自分では理解不可能だ。
 何故わざわざ、深成を助けたのだろう。

「……どうでしょうな。わしから見れば、そうですなぁ、頭領は、深成を大事にしていたと思いますよ」

 このようなことを言えば、即座に嫌な顔をしていた真砂だが、今は少し不思議そうな顔で、長老を見ている。
 そんな真砂に、長老は少し嬉しそうに笑った。

「頭領も、表情が豊かになりましたな。そういう変化も、深成と接したからではないですか? 大事にする、とはいっても、何というのか。単に、他の者とは違うというのは、ご自分でもわかってらしたのでは? あきなどと同じようには、思わないでしょう?」
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