君影草~夜香花閑話~
「……」

 真砂は左腕に目を落とした。
 ここまでの怪我をしてまで助けようと思ったのは、深成だったからなのか。
 もしあのとき一緒にいたのが、あきや千代だったら、どうしただろう。

「深成は、里から出るときに、随分泣いたそうですな」

「……ああ、聞いた」

 深成は真砂の前では泣かなかった。
 が、捨吉が送って行ったときに泣いたそうだ。

「深成は、頭領を慕っておったのですなぁ。許されるなら、ずっと頭領のお傍にいたかったのでは、と思いますよ」

「帰ると決めたのは、あいつだぜ。大体、俺の傍にいて、あいつに何の得があるというのだ」

「人を愛する、ということは、損得抜きの話でありますれば」

 ふふふ、と笑いながら、長老は囲炉裏の灰をかき混ぜる。
 そして、真砂に顔を向けた。

「頭領だって、深成がいなくなってから、何か虚無感を感じませぬか?」

 少し真砂は首を傾げた。

「虚無感……というのか。まぁ、ちょっと不便を感じることはあるが」

 だがそれは、深成がいなくなったためというよりは、片腕になったことが原因なのではないかと思うのだ。
< 120 / 170 >

この作品をシェア

pagetop