君影草~夜香花閑話~
「いいえ。今ご自分で言いながらも、気付かれたでしょう? 頭領はそんなお人ではありませぬ。それは、小さい頃から見てきたわしが、一番わかっておりまする。どんな状況であろうとも、あなた様は人の施しなどは受けませぬ。そのような状況になれば、死を選ぶでしょう」

 真砂は口を引き結んだ。
 長老の言う通りだ。

「それ以前に、おそらくご自分を盾にすることもしない。人を守ろうとなど、あの戦以前は考えられなかったでしょう?」

「……確かに」

 真砂は息をついた。

「あのときは、考えるとか以前に、身体が動いていたんだ。ちょっと前は、あいつを捨てようかとも考えたが、結局助けたな。あいつを助けたところで、別段何の得にもならないのに」

「ほほ。先程も申し上げました。人を愛するということは、損得抜きの感情です」

 ようやく真砂が、いつものように眉を顰めた。

「俺が、深成を愛している、というのか?」

 長老は穏やかに微笑む。
 そして、外に目をやった。

「どうでしょう。そうであればいい、と思いますがね。ただあの可愛い娘っ子を、頭領も気に入っていた、というだけのことかもしれませぬ」
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