にじいろオフィスの仕事術
希美は咄嗟にそれが嘘だと感づきうろたえた。

彼は引き継がずとも完璧に仕事を片付けているだろうし、何よりも昼のことを思い出せば説教第二ラウンドが始まることは目に見えている。

しかしそう思ったのは希美だけで、富永はその言葉を疑うこともなく納得したように頷いた。



「そっか、それじゃお先にね」

「あ! 待ってください、富永さーん!!」

「待たない。着いてこないで!!」



まるで虫を追い払うかのように手をヒラヒラさせて帰る富永を追って、橘田も慌てて鞄を抱えて走っていった。

その背中を見送ると、課に残ったのは希美と橋爪だけになってしまった。

おそらく他の女性社員であれば誰もが羨むシチュエーションであり、どこかのオフィスラブの物語ならこれから夜のマンツーマン指導♪となるだろうが……



希美たちの間に、そんな甘ったるい雰囲気はこれっぽっちもなかった。





「で?」





あるのは、剣呑な雰囲気と刺すような視線だけである。

えへ、と自分なりに可愛く首を傾げてみたものの、場は一切和まなかった。

彼は辛抱強く希美の言葉を待っており、それを避けるようにしばらく視線をふよふよさ迷わせていたが、最終的には観念してマル秘書類紛失事件を白状することとなった。



「バカかお前!」



一部始終を聞いた直後の一声がこれである。



「ひーっ!  怒らないでくださいッ」

「怒らずにいられるか、これがッッ」

「ごごごごめんなさーい!」



手近にあったファイルで橋爪の攻撃を盾にしながら、希美は後ずさった。

もちろん彼も、怒鳴り散らしたところで状況が変わるわけではないことを十分に分かっている。

その後の雷を落とされずに済んだのは有り難い。



「課内にはあるはずなんです、その……捨ててさえいなければ」

「当たり前だ!  そうなってたら始末書どころかクビだと思え!!」

「そんなぁ……」



元はといえば、とコーヒーを口に含んで呆れ顔をした。
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