昨日の友は今日の恋人!?~甘い視線で迫られて~
ペコリと頭を下げた寺嶋さんは一歩前に出て、こわばった顔のままの桜の腕をそっと掴んだ。すると彼女は、力任せにブンッとその手を振り払う。

「いや、触らないで!!」

「三崎さんっ」

寺嶋さんの大きな声にガヤガヤしてたはずの店内が一瞬、シンと静まり返る。皆の視線がこの席に向かって飛んできた。

桜の顔はみるみるうちに歪んで「三崎さんなんて呼ばないでよっ。なんなの? 上司のつもり? もうっ……タカちゃんのバカァ」と泣きはじめた。

なんじゃ、こりゃ。

十年来の友人が初めて号泣するさまにあっけにとられ、私は奏多と視線を合わせる。

奏多はテーブルの脇に引っ掛けてある伝票を手にした。

「お前ら、どんな酒豪よ」

こんな短時間で、とブツブツ言っているのは、伝票に書かれた生中の正の字が三つ以上並んでいるからだ。

「あ、私がっ」

奏多が伝票を持った意図に気づいて立ち上がろうとすると、彼は私の肩を押さえた。

「いいから。支度しといて」

その間も桜は、ヒックヒックとしゃくりあげたままで「泣くなよ」と、あやす寺嶋さんの声だけが聞こえてくる。

お嬢さま風の外見からは想像できないほどシャキシャキとしているのが普段の桜なのに、その彼女がこんな風になるなんて。さっきは知らないなんて言った、彼女の屈折した心の具合がよく分かる。

寺嶋さんは泣いてる桜に困りながらも、彼女を見つめる瞳は甘やかだ。桜の隣を陣取って、泣きじゃくる桜に「桜、ごめん」としきりに囁いている。

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