遅咲きの恋は花屋にて。
松田は見た目はチャラチャラとして軽そうに見えるが、一流大学を卒業し、仕事もできて、容姿も良くて、仕事で彼と携わる女は結構松田に惚れている者が多かった。
この業界は、CM撮影などで色んな芸能人とも関わりがある。いくら春香が美人と言えども、さすがに女優やモデルには及ばない。女なんて選り取り見取りのはずだ。
松田は煙草の火を消すと、春香を目で追いながら言った。
「守ってあげたくなっちゃう女ってさ、弱かったり鈍臭い女じゃないと俺は思うんだよね。ああやって、誰にも頼らず何でもやっちゃう強い女こそ守りたい…というか支えたくなるんだよ。」
松田の顔には笑みがこぼれていた。
「…って言う割りにはダメダメですけどね。」
「うるせっ。」
俺はなー、と何やら言い訳を次々と並べる松田の声は伊藤の耳には届いていなかった。伊藤は立ち上がると、松田の手を取り、勝手に煙草の火を消した。
「あ、お前何すんの。」
「仕事戻りましょ!春香先輩支えるんでしょ?」
伊藤はそう言うと、松田の肩を両手で持ち、松田の体の向きをくるっと変えた。
そして松田の背中に向かって言った。
「私は…ヒデ先輩の煙草の匂いも好きなのにな。」
「え……?」
「さー!ほら進んで!」
松田の返事を待たずに伊藤は背中をグイグイ押した。
それぞれの気持ちはまたも、複雑に絡んでいるのだった。