遅咲きの恋は花屋にて。





松田は少し躊躇したが、煙草に火を付けた。


「俺は基本、女に優しいんだよ。まあ、好きな女には尚更な。」


確かに春香先輩の前では、煙草もあまり吸わないしね。と伊藤は心の中で呟いた。
好きな人と、それ以外。そう考えることは別に変なことではない。でも、伊藤は自分が“それ以外”に入っていることが嫌だった。



「それにしてもさー、本当、なんで俺あの時誤魔化したかなーっ。せっかく好きって言えたのにさ…。」

松田は肩を落とし、ため息と一緒に煙を吹いた。そして、休憩室の窓から見える春香を目で追った。


あれから、松田と春香は至って普通に過ごした。強いて言うなら、春香が伊藤に松田の好きな人を聞こうと探りを入れるようになったことだった。


「大丈夫ですよ、ヒデ先輩。居酒屋で告白はちょっと引きますし。」
「だっ、だよなー!そう!俺もそう思ったの!別に言った直後にビビって逃げたとかじゃねーし!」


突然明るく笑い出す松田。誤魔化すのが下手すぎだ。


「…なんで春香先輩なんですか?」

伊藤は缶コーヒーを持った手に力を入れて、松田に聞いた。突然の問いに、松田は少し面食らった様子だった。

慌てて伊藤は言葉を続けた。


「ほらっ、ヒデ先輩モテるじゃないですか。確かに春香先輩は仕事も出来るし美人だけど、他にもいっぱい…。」



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