ダイヤモンドの未来
「酒井さん。」

後ろから、低く穏やかな声が聞こえる。
先生の声。
師長も私も振り返る。

「どうしました?声が聞こえたので。」
と師長の方を向く。

はっとして、周囲を見ると、人数は少ないが会計待ちの患者さんや受付の職員がこちらを伺っているのが分かる。

師長が、「外来にカルテがあって…」と簡潔に状況を説明する。本当は知っているはずだし。

「そうだったんですか。申し訳ありません。」と先生がすっと表情を改めて、潔く頭を下げた。

それには私も師長も驚いた。
でも、一番驚いたのは酒井さんだったらしい。

「せ、先生、頭上げてくださいよ。」

口調も私達に対するものとは変わっている。医者とそれ以外のスタッフで、対応が変わる患者さんは結構多い。あとは、やっぱり女はという、男尊女卑の感じ。ある程度の年齢の患者さんはしょうがないのかもしれないけど。
なんといっても、お医者様、先生様々の部分は確かにある。

しかも、今回、先生が頭を下げる理由はない。けれど、酒井さんの性格を分かっていて、あえて頭を下げてくれたのだろうか。医者はえらそうにするのは簡単だけど、頭を下げるということは難しいんじゃないだろうか。

先生は、本当にかっこいい。自分の診察の時は、自分のことでいっぱいいっぱい過ぎて、よく見ていなかったのが悔やまれる程に。

先生が顔を上げて、

「じゃあ、薬を準備してもらって。」

と私の方を向いて、軽く頷いた。

我に返って、やることを思い出す。

「ちょっとお待ちください。」

慌てて、薬局へ駆け込んだ。

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