天才に恋をした
駅への帰り道。

珍しく苗から、しゃべった。

「ニヤッてしてたねえ」

「ニコニコだろ」



苗、笑ってる。

まさにニコニコしてる。



「妹はあっちに住んでるの?」

「オバサンのヨウシになったの」

「お前…母ちゃんは?」

「心が病気になっちゃったから、ずっと入院してる」



生きてたのか…

言えよ、親父。



「会ってる?」

苗は首を横に振った。



「会いたい?」


苗はまた首を振った。


「もう覚えてない」



空っぽって感じがする。

母親との思い出が、本当にないんだ。


「キエちゃんて…どういう字書く?」

「貴重な枝で、貴枝ちゃんっ」


またニコニコしだした。

思わず頭をなでた。
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