天才に恋をした
ヒメタ思い

23-1

夕飯を家族みんなで食べるのは、ひさびさだ。

と言っても苗はいない。


「いっぺんに済むと楽ぅ~」

母ちゃんが喜ぶ。



「苗ちゃん、まだ元気ないの?」

親父が心配そうに言う。



「食欲ないって?」

「ないみたい。でも学校には行ったのよ?」


親父がため息をつく。


「休めばいいのに」

「沖縄の歴史を調べる係なんでしょ?」

母ちゃんが俺に聞く。



「知らねー」



親父が、箸を置いて怖い顔をした。


「俺は気づいてるんだからな」




一瞬、時間が止まる。



何を言い出すんだ。

いや、いい。

俺は逃げない。



親父を座った目で見返した。





「酒、飲んだろ」



……酒。



「しかも一番高いヤツ!」

「やっぱり~?モーゼルが動いてるから、変だと思ったぁ」



今ごろ気づいたのか。

正月に利道さんが、飲んじゃったんだよ。



「オイッ、次飲んだらレッドカードな!!」



…だけか。
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