天才に恋をした
言葉が出てこない。

信じてたものが、

砂になって崩れ落ちてゆく。



「どこに…行くんだよ」

「リーグブル共和国」



聞いたことはある。

世界中のエリートが集まる、ヨーロッパの……。



肩をつかんだ手に、力がこもる。



「…嫌だ」


かすれた声だった。


「なんで…そんな…」


抱き寄せたかった。

でも俺は約束している。

苗が自覚するまで、二度と同じ事はしないって。


「行くな」

苗の顔を見つめた。



「修士から留学すればいいだろ。学士なんてどこも一緒だって!」


本当にそうか?

苗は違う。

俺がズレてるんだ。

だけど…



「お前と離れて生きていけない」



息がうまく吸えずに、あえいだ。

全身が現実を拒否していた。


苗がいなくなる。


そして、

目を背けたくなる様な、

もう一つの現実が迫ってきていた。
< 138 / 276 >

この作品をシェア

pagetop