天才に恋をした
乃愛が立ち上がったが、苗は動かない。

夢中でペンを走らせている。


「おい、苗っ」

「苗ぇ。ケーキだって」



苗は表情一つ変えずに、問題集を見つめている。

「聞いてんのかよ。変な奴だな」

「苗ちゃんて、動物的なところあるよね。私は嫌いじゃないかな」



俺が苗に近づこうとすると、乃愛が「いいからいいから」と言った。

「今、ノッてるんだよ。30分くらいしたら私が呼びに来るから」

「ああ」

「ね、行こ」



俺たちは階段を降り、リビングへ行った。

「こんばんは~」

乃愛がそつなく挨拶する。


「こんばんは!」

うるさい親父も上機嫌で応じる。



俺がコーヒーの準備を始めると、乃愛もするりとキッチンに入り手伝ってくれる。


これ!

これが女子だろ!



「…あれ?苗ちゃんは?」

「あ~。後でまた呼ぶ」

「ええ~?なんで~?」


ケーキを取り出すと、乃愛が歓声を上げる。

「きゃあ、可愛いっ」



しょうこりもなく、また親父が言う。


「ねえ。苗ちゃんも呼んできてよ~~~」

「うっせーな」


俺が行こうとすると、乃愛が押し止めた。


「いいからいいから。私呼んでくるよ」

乃愛が二階へ上がって行った。




「なに。あの子、お前の彼女?」

「ちげーよ」

「ふうううううん」

「頭いいんだよ!苗の勉強を教えにきてるだけ!」


新聞を広げながら親父が言った。


「苗ちゃんの方が断然いいけどね!」


…いいわけないだろ。
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