天才に恋をした

28-2

親父が突然立ち上がった。

頬に破裂するような痛みが走って、

後ろのソファーまで体が吹っ飛んだ。


「止めて!ちょっと!」

「お父さん!」


親父が俺の胸ぐらをつかんだ。

「ふざけんな!お前!人の信頼を裏切りやがって!ヒトのっ…!他人様の娘をっ!」


馬乗りになられて、また殴られた。


頭に血が登った。

「痛ぇな!止めろよジジイ!」


だけど防戦一方で、何もできない。


「お前!そんな奴かあっ!そんな奴だったのかっ!!」

「止めて!お父さん!」

「止めなさいよ!」



陽人の泣き声が聞こえる。

そして、苗の声も。


「止めてーっ!」


それは悲鳴に近かった。


「嫌ーっっ!!」


家が揺れるほどの絶叫だった。


ひるんだ親父と俺の間に、体ごとぶつかってきた。



「うわあああん!」

俺にしがみついて、苗が泣きわめいた。


「止めてよーっ!」


俺は苗の頭をなでた。

言葉をかけたいけど、顔が火傷したように熱い。


誰も何も言わないまま、時間だけが過ぎた。

苗の泣き声が、部屋に響く。


母ちゃんがようやく口を開いた。


「とにかく、起きてよ」

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