天才に恋をした
母のケツダン

29-1

「な…なんで!?ヒロさんまで、そんなこと言うの!」

親父が興奮する。


思わぬ展開だ。

まさか母ちゃんが、味方し出すなんて。



「去年の夏、蓼科で炊事・洗濯・掃除…私は徹底的に教えたよ」


そんなことしてたんだ。

カブトムシの話しか聞いてねーけど。



「出来るは出来るんだけど…でも生活が出来ないの」


…どういうこと?



「苗ちゃんは、洗濯機を回したら終わりまで見てるし、料理だって味噌汁の具を煮てる間に、他のものを作るって事ができないの」



あり得る…。

それでこそ、苗だ。



「私、絶対無理だと思って、ヨーロッパ中のお友達に手紙を出したけど、リーグブルに何年も住んでくれる人なんていないのよ」

「だって寮に入ればいいじゃないか!」


親父が食い下がる。



「日本じゃあるまいし、寮母さんが懇切丁寧に世話焼いてくれると思う?」

「いやっ!だけど、だからって真咲が…」

「私が行くしかないのかなって思ってたけど、あの国って標高が高いでしょ。長期滞在すると偏頭痛が出るの」


母ちゃんが、顔をしかめた。


「真咲が行ってくれれば安心なんだよね」

「あ、あっ…安心てさ、真咲の安心なんて無いに等しいよ!」



母ちゃんは、俺をチラリと見た。

それから、苗をマジマジと見て言った。


「ちゃんと有る。大丈夫」
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