天才に恋をした
ミトメざるを得ない

31-1

薄暗い道を歩いた。

「妹の家に行かれたら、アウトだな」


今さら気がついて、思わず独り言が出る。



…いや、きっと家には行かない。

あの時だって、妹に声は掛けなかった。



神社…どこだ?

昼間とは道の感じが違う。

東京なのにすれ違う人もなく、薄暗い道が続く。



ふと、通り過ぎた路地に何か動くものを見た。

後戻りして、目を凝らす。


白い小さな固まりが、もぞもぞと揺れていた。


いた。


苗だ。

ほっと息をつく。


そっと近づいて、捕まえてやろうか?



…それじゃ、変質者か。



逃げられたって、あいつの鈍足なら、追いつくのはヨユー。

だから結局、声を掛けた。


「…苗」

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