天才に恋をした
苗は気がつかないのか、ぼんやりと腕を掻いている。


「苗!」

もう一度呼んだ。

苗がこちらを向いた。

驚いたように体が揺れたけど、逃げる気はないみたいだ。



俺が近づいて行くと、腫らした目を伏せた。



「お前、すっげー刺されてるじゃん」


腕や、よく見ると足も蚊に刺されてボコボコになっている。



「カユい…」

情けない声を漏らす。


「だろうな」



苗が屈んで、掻きむしろうとするのを慌てて止めた。



「掻くな掻くなっ」

「カユい…」

「帰って薬つけよう」



それを聞くと、苗は疲れ果てたようにしゃがみ込んだ。
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