天才に恋をした
陸玖は、力が抜けたように腰を下ろした。

そして手を握りしめて言った。


「苗ちゃんは分かるよ。何で真咲まで行くんだよ?」

「それは黙ってて悪かった。自分の気持ちに気づいた時に…」

「サッカー辞めてまで!?そんなもんだったのかよ!」



俺、勘違いしてた。

苗のことじゃない。

角田が言ってたことを思い出した。


―あのチームでサッカーやれるのは、今だけだよ―



陸玖に向かって言った。

「ちゃんとやるから」


陸玖が睨んだ。

「必死でだろ」

「必死でやるよ。絶対、レギュラーで居続ける」

「一回でも落ちたら、本当に許さないからな」

「やる。約束する」



陸玖は俺を見つめて、ゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ…」


俺は身構える。


「角田、ジュース買ってきて。ノド乾いたから」

「は!?」


はうっ!と妙な声が、窓越しに聞こえた。

窓から身を乗り出すと、壁に角田が張り付いていた。


「お前、忍者か」

「み、水でよろしい?」

「ヤダね!」


角田は肩を落とし、でも次第にスキップになって遠ざかって行った。

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