天才に恋をした

39-2

次の年、俺はとうとう苗と同じ十階へ上がった。

ギリギリセーフだ。


サッカー部は、引退した。

インターハイ予選は去年と同じ準優勝、

全国大会予選は、ベスト4で幕を閉じた。



もう悔しがってる暇はない。


次は勉強で結果を出さなきゃ、悔しいなんて問題じゃなくなる。

提出する書類が山ほどあって、これは母ちゃんがさばいていた。



電話の音で目が覚めた。

ソファで寝てた…

今、夢でも英語使ってたし…



「hello…じゃなかった、こんにちわ…じゃなかった…もしもし」



ワンテンポ遅れて声が聴こえてきた。


「お、やってるか勉強!」

「やってるよ…」


むしろ、それしかしてねーよ。

二番目の兄貴だ。


「俺、春からベルギーに転勤になったよ」

「へぇ」

「その前に一旦帰国するからさ、アレ考えといてよ」

「なに?」

「親父たちの、結婚四十周年の記念品」


この兄貴は、ホントこういうことに気が回るな…


「陽子と相談してさ、アイツは忙しいだろうからお前買いに行けよ。決まったら、兄貴と俺で金出すから。陽子も出すだろうけど」

「ああ、分かった」

「考えてみたら、親父が兄貴の歳だった頃にお前が生まれてるんだもんな~。感慨深いものがあるなぁ」



そうか…そうなるのか。


「大兄って、今いくつ?」

「だから四十だよ。結婚した年には生まれてるんだから」


ということは、親父たちは40プラス18で今58…


「ああああっ!?」

「じゃあね、ヨロシクシク~!」
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