天才に恋をした
「アイツはよけーなこと言いやがって…」

親父が苦虫を噛みツブした顔で言った。


「バレると思ったぁ」

母ちゃんが清々した顔で、チーズを口に運んだ。


「もう入籍するからな」

「俺たちとは時代も事情も違うだろ」

「自分は十八でガキ作っといてナニ言ってんだよ」

「バッバカッ。出来ちゃった婚じゃないよ!ハネムーンべイビーだよ!」

「うそつけ」

「ち、違うよぉ!ねぇヒロさん、違うよね?」



母ちゃんが苗に言った。

「どっちだっていいよねぇ」



苗は食洗機をセットするのに集中していて、何も聞こえていない。

母ちゃんがため息をついた。


「実際問題、その方がいいと思うけど…」

「またヒロさんはそういうこと言う~!」

「ワタシ、苗ちゃんが自分の国籍を守りきれるか心配」


親父が腕を組んだ。

俺は親父の答えを待った。




「もし結婚するなら、お前は養子にいけ」




は?

一瞬、意味が分からなかった。




「苗ちゃんは一人娘。お前は三男。真咲が婿に入るべきだ」

「俺が…宮崎になるってこと?」

「そうだよ」



考えてもいなかった。

母ちゃんは、珍しく真面目な顔で事の成り行きを見ている。



食洗機がうなり声を上げ始めた。



なんで俺が?と思った。

だけど、そんな自分に「なんで?」と思った。



「それなら結婚してもいいんだな?」

「いいよ」




「じゃあ、そうする」





しばらく誰も何も言わなかった。


ようやく母ちゃんが口を開いた。

「どっちにしてもMMだね」
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