天才に恋をした
三月二十日。


卒業式のその日に、俺たちは入籍した。


苗字を変えるって、すっげー面倒。

いや、マジで名前ってスゴい力を持ってるって分かった。

何も考えたことなかったけど。



宮崎先生は丁寧な手紙をくれた。

今は植物の生育に大切な時期らしく、帰国できないとのことだった。


「式は落ち着いたらまた改めて」ということになった。


苗の母親にも会えなかった。

「免疫力が極端に弱いから、会えないって。会っても人の顔が認識できるような状態じゃないみたい。もう長いこと、一言もしゃべらないんだって」

親父から言われた。



あの妹の貴枝ちゃんは、戸籍上は宮崎先生と母親から産まれて、

そこから養子になってるけど、

実際は宮崎先生と血の繋がりはないらしい。



元々、精神的に不安定だった母親は、

苗を出産後にイギリスへ戻る飛行機の中で大暴れして、

離陸直後に空港へUターンするという事件を起こした。


「彼女(苗)ですか?…こちらは非常に大人しいものでした」


母親だけ日本に残って、

苗のひい祖母さんに当たる人のもとで療養していたが、

数年後、いきなり妊娠していて、それが貴枝ちゃんだった。


「誰が父親なのか…もの言わぬ妻でございますから。しかし、放っておくわけにはゆきませんので、急ぎ帰国して戸籍に入れましてね」


この一度だけの対面で、貴枝ちゃんの顔と叔母の家までの道順を苗は覚えてしまったらしい。


カーナビかよ…
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