天才に恋をした
イコクの地

40-1

こうなると思ってはいたんだよな…



苗は部屋から出てこない。

リーグブルへ来て二ヶ月半。


生活に慣れてくると、家でほとんど会話していないことに気がついた。


苗は食事に呼べば出てくる。

それ以外は延々と討論会の録音を聞き取り、書き出している。



あらゆる試験をA*(最高点)で通してきた苗だけど、

弱点はコミュニケーション能力だった。



俺も最初は、どんなに主張してみても

英語の渦に飲み込まれてゆくような気がしたけど、

そこはサッカーで培った攻撃力で、

テンポが大事ということが分かってきた。



小さな窓から外を見た。


一年で一番いい季節。

用水路だと思っていた川に、白鳥が親子で暮らしている。




みにくいアヒルの子って、本当だな…って、くらいの会話したいだろ?

一応、新婚なんだぞ?




昨日の晩から猛烈にムカついてきて、

もう飯も呼んでない。

心配するのもバカバカしい。

俺は俺のことをやる!



あー。ため息出てくる…

今日、俺の誕生日じゃん…


陸玖ですら、メッセージ送ってくるのに、アイツは無視かよ。



イライラしているところに、宅急便が届いた。

珍しく受け取れたよ…


おい、なんだこれ?

箱、思いっきり潰れてるし、

つーか、もう……かろうじて、テープで止まってるだけだし。


英語で抗議すると、まだ若いように見える男は平然と言った。


「知らない。どういうことだろう。自分ではない」


家に居るのに、荷物を持ち帰ったり、

ドアの前に放置だったり、不在表も入れてなかったり。



こんな国でナニを学ぼうとしてるんだ、俺は?

日本が便利すぎるんだって分かってる。

だけど心が拒否るんだよ。



角田からだ。


箱を開けてみると、えーーーっと……たぶん、ポテトチップスだったんだろうな。

もう原型がねーけどな。


あと、こっちの箱は『白い恋人』だな。

もう『元・白い恋人』だけどな。


このビンからこぼれ落ちてるのは、

臭いからしてカ二のふりかけか。


あーあ、気が利くな…。

ラーメン食べたかったんだよ。もう袋、開いてるけどな。



なるほど。

そっかそっか。



「つまり北海道に行ったんだな…」



写メを撮り、角田に礼を言った。



~世界の広さをナメんなよ!!



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