天才に恋をした
基礎教育の学校“エイトブリッジ”は、下宿先から二駅先にある。



生徒の国籍は本当にバラバラで、日本人は俺たちだけだと言われた。

年々、日本人の入校者は減っていたが、とうとう今年は二人だけ。



円安のせいもあるし、

大学入学に必要なテストから「Japanese」が無くなってしまったこともある。


でも一番の問題は、「内向き思考」だと言われた。


うーん、俺も苗がいなければ、留学なんて考えてもいなかったから、反論できないな。




日本の学校だと自己紹介から始まるが、ここではいきなり授業が始まった。

お友だち作りに来てるわけじゃないからな。



授業が終わって、いつもどおり苗と学校を出ると、

同じ学校のオトコが近づいてきた。


「僕の家のパーティーに来ると良い」


もちろん、英語だ。

苗が、あいまいにうなずいた。


俺がすぐ隣にいるのに、オトコは苗に向かってしゃべってる。


なんだ、コイツ?



中央アジア…にしては、肌が浅黒いし、

西アジア…にしては、目鼻立ちが浅い。


分からん。

もうアジア人なのかすら、分からん。




するとオトコは顔を赤らめもせずに言い放った。


「君は美しい。僕は君のように美しい人を初めて見た」


苗がうなずく。

スルーに近い、うなずき方だ。



おいおいっ!!


俺は割り込んだ。


「彼女は俺の妻だ!」

「君は兄弟だろ」

「夫婦だ!!」

「歯を黒く染めていないじゃないか」


はーーーーーーーあ!?

いつの時代の話だよ!


苗が説明した。


「日本では1870年から、それが禁止され、今では行う人がいません」

「ふむ。すると既婚女性は何もしないのか」

「日本人も欧米化されて、指輪をつける人が多いです」

「キミの指輪はどこにあるんだい?」

「私は持っていません」

「日本は妻は何人まで?」

「一人だけです」

「僕は四人まで許されている」


苗が『なんだって~』と言うように俺を見た。


要らねーよ!

お前だけで手いっぱいだっつーの!

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