天才に恋をした
俺は前に出た。
「俺たちは夫婦だ。学校側に問い合わせてみろ」
「キミたちは、神の前で結婚を誓ったのか?」
「まだだが、戸籍上は夫婦だ!」
「そんなのは、結婚とは言えない。神が認めていないのだから」
神!?
真面目な顔して、神とか言うなよ!
「今すぐ、どこでだって誓ってやるよ。アーメン!」
「キリスト教徒なのか?」
「宗教なんて持ってない」
「なんだって?気味が悪い…!」
俺は苗の肩を引き寄せた。
「俺たちが『夫婦』であることは国が認めてる」
「僕の国では、入国時に必ず宗教の申告をしなければならない。そうしなければ、入国が認められない。国や個人よりもまず、信じる神が何なのかを明白にしなければならない」
苗が答えた。
「信仰してはいませんが、禅仏教を心の拠り所としています」
オトコが眉を上げ、俺を見た。
「無い」
再び答えた。
「神を信じないというのか」
そんなこと、考えてみたこともねーよ……
スタメン発表の時は、毎回祈ってたけど。
それでも反論した。
「俺の神は、心のなかにいる。それをお前に示して何になる?粘土で人形でも作るのか?それでお前が、俺の神を理解できると思えない」
オトコは肩をすくめた。
「理解できるとは思わないが、神を信じてないと言わないだけ安心した」
めんどくせーな…
ここに来た途端、常に自分がナニモノなのかを証明していかないといけない。
日本にいたら、そんなの大体でいいのに。
オトコは俺たちの住所を確認すると、その場から立ち去った。
「あんなのに付いていくなよ」
「お友だちは大事だよ」
「下心のある友達は、本当の友達じゃない」
「下心……それは英語で何て言うのかな?」
「辞書だ」
「ジショ、ジショ」
買い物して家に帰ると、でっかい花束がドアの前に届いていた。
「あのキザ野郎……」
こんなもん、捨ててやろうか…
だけど、苗はそそくさと花束を拾うと、すぐにバケツに生けた。
勉強以外の事を自分から進んでするなんて珍しい。
そうだった…コイツ、花が好きなんだった。
飯を食いながら、テーブルの脇のバケツアレンジメントを見つめてる。
「嬉しいのか?」
「うれしい」
ふーーん……
次の日、あのオトコがまた苗に話しかけてきた。
「家に行ってもいいか?」
苗がなにか言うより先に答えた。
「おお、来いよ」
家に上がったオトコが絶句した。
「…君の家はフラワーガーデンなのか?」
ざまぁみろ。
近所の花屋の花を買い切って、家中に飾ってやった。