天才に恋をした
過ごしやすい季節は瞬く間にすぎて、短い秋が終わると、すぐに冬になった。


首都ワッダーパークを凍てついた山脈が、飲み込むかのように見下ろしている。


「すっげぇ…ロードオブザリングじゃん」


開けられない窓から、外を見る。

クリスマス市が立っているのが、遠くからでも見える。

薄暗い街中で、そこだけフワッと明るい。


ため息がガラス窓を曇らせた。

久々に日本語しゃべったな。

勉強のために、こっちに来てからは英語ばっかりしゃべってる。


リーグブルは公用語が、四つある。

リーズ語、英語、フランス語、ドイツ語。

なんと会議の前に、何語で会議するかの会議がある。



また、苗は部屋にこもりっきりだ。

色んな意味で苦しい。


競争は、し烈だった。


ワッダーパーク大学のアジア人入学条件が、さ来年度から更に厳しくなった。

この条件だと、試験に落ちた場合に浪人できない。



人種差別だと抗議はあるけど、他の大学では四十パーセント以上がアジア人という所もあるらしい。

それくらい日本以外のアジア先進国は、国をあげてエリート教育に力を入れている。



ゆとり世代は駄目だ!って言っているヤツだって、

ここに来たら「ゆとり教育世代」だ。



出世がすべてじゃないよ、なんて言ってる場合じゃない。

このエリートが世界中の国際機関でリーダーシップを取って、当然、自分の国に有利な決定をする。


何百人ものアジア人がリーグブルに送り込まれてる中で、日本人は俺と苗だけ。

別の学校に一人いるらしいけど、それ以外に日本人がいるという話は聞かない。


これでいいのか?


苗が次々とグレードA*を叩き出す中で、

俺はどうしても二科目はAが出る。


エイトブリッジが、苗の授業料を免除すると言ってきた。

一年全納分が、丸々出資したリーグブルに戻される。



世界と闘う。

それは苗と闘うことでもある。



そびえ立つ山々を見た。

途方もない壁がすぐそこにあった。
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