天才に恋をした

医者を待つ間、ただ苗の顔を見続けた。


馬鹿だ、俺は。

なんで嫉妬なんかしたんだろう。


苗は天才だ。

そして、ただそれだけだ。


天才でしかないんだ。


だから、俺がいるんじゃないか。




医者は思ったよりも早く来て、そこはさすが先進医療の国。

テキパキと処置すると、すぐに救急病院へ搬送してくれた。


診断の結果は「静脈血栓塞栓症」

いわゆるエコノミークラス症候群だった。


「本当に馬鹿だ…」


苗を死なせるところだった。

なんのために結婚したんだよ…




宮崎先生が、電話で慰めてくれた。


「真咲くんのおかげで早期発見につながりました。それに動かさなかったことも実に適切でした。ありがとう」



日本に電話すると、当然のごとく親父の雷が落ちた。

「何やってんだっ!この馬鹿ぁっ!カッコつけておいて!カエセッ!」


正直、親父の怒鳴り声も懐かしい…

ただ「カエセ」の意味は不明だが。
< 232 / 276 >

この作品をシェア

pagetop