天才に恋をした
医者を待つ間、ただ苗の顔を見続けた。
馬鹿だ、俺は。
なんで嫉妬なんかしたんだろう。
苗は天才だ。
そして、ただそれだけだ。
天才でしかないんだ。
だから、俺がいるんじゃないか。
医者は思ったよりも早く来て、そこはさすが先進医療の国。
テキパキと処置すると、すぐに救急病院へ搬送してくれた。
診断の結果は「静脈血栓塞栓症」
いわゆるエコノミークラス症候群だった。
「本当に馬鹿だ…」
苗を死なせるところだった。
なんのために結婚したんだよ…
宮崎先生が、電話で慰めてくれた。
「真咲くんのおかげで早期発見につながりました。それに動かさなかったことも実に適切でした。ありがとう」
日本に電話すると、当然のごとく親父の雷が落ちた。
「何やってんだっ!この馬鹿ぁっ!カッコつけておいて!カエセッ!」
正直、親父の怒鳴り声も懐かしい…
ただ「カエセ」の意味は不明だが。