天才に恋をした
風邪気味だと春一にメールで返信して、数日が経った。


苗が心配そうに俺を見てる。

お前のせいなんだけど……


今まで以上に会話がない。

だって何を話すんだよ?


家事はもちろんやる。

それは俺が自分で決めたことだから、問題ない。

だけど、会話となると……


ドンッ!!ダンダンッ!ドンッ!!


洗濯室から物凄い音が聞こえた。

慌てて行ってみると、苗が困ったように洗濯機の前に立ち尽くしていた。


「なに?」

「洗濯しようと思ったの」

「日本と違って、これはフタを開けても止まらない」


水が跳ねとんで、べっしょべしょ…

止まらないから、いきなりコンセントごと抜いたらしい。


「次、洗っとくから貸せよ」

「真咲くん、具合が悪いのに…」

「いいから」


苗から洗濯物を受け取った。

「床、モップで拭いといて」


苗がモップを持ってきた。

うなだれながら、床を拭く。


「ごめんね…」


涙声だった。

顔を上げると、メガネを曇らせて泣いている。


分かってるんだ。

本人だって、どうにもならないんだ。

どうにかしたくても、どうにもならない。



苗を引き寄せ、メガネを外した。

袖で涙を拭ってやる。


「大丈夫。何とかなるよ」

「ごめんね……」

「大丈夫だよ。苗は何も心配しなくていいから」


この瞬間、ふっと自分が変わっていくのを感じた。

苗を思う気持ちが、世界中に流れ出して行く。

流れて行くのに、尽きなかった。


「苗は俺の誇りだよ」

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