天才に恋をした

41-2

春休みに入って、陸玖が遊びにやって来た。



自分でもキショイけど、会えるのが嬉しすぎて寝不足。




まだ寒いけど、空気が緩んだのを感じる。

カチカチだった地面もシャーベット状になって、踏むたびにシャリシャリと調子のよい音がした。


「おっす!」

「ひさしぶり!」


思わず肩を組んだ。




陸玖は変わってない。

変わってないけど、やっぱ大学生らしい目付きになってる。

大人になったようで、のんびりした顔っていうか。



「苗ちゃんは?」

「ホームベーカリーの前で、番してるよ」

「良かった…むちゃくちゃ腹へった」




電車に乗り換えて、仲間たちの話をした。


「角田は大学入ってから、三人連続でフラれて、今は四国八十八ヶ所回ってる」

「あっはっは。マジか!まだ早くねーか?」

「早いよね?『本当に人生に迷ったら、次どこ行くんだ』って言ったんだけど」

「角田は学部どこ?」

「それが女の子追っかけて、商学部から農学に転部したんだよ。それでフラれてるし」

「ウケるアイツ。四国で農家のヨメ捕まえるしかないな」



陸玖が俺をマジマジと見た。

「なんだよ?」

「いや……もう結婚してるんだなと思って」

「そうだよ。今さら?」

「上手くいってる?」

「ある意味な」

「ある意味って?」

「今に分かるよ…」


息を飲むような山々が見えてきた。

あの白さ。まだまだ春は遠いな。


陸玖は写真を撮りまくっている。


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