天才に恋をした
リーグブルでは数少ない平地の公園で、ボールを蹴った。

卒業して始めてだ。

だけど体が覚えてる。


陸玖の足元へ吸い込まれるように着地した。


「いいね!」

「おう!」


夢中でボールを蹴りあった。

何にも考えず、これに夢中になってた時代があった。

その時の空気が、一気によみがえってくる。



宙を舞うボールを捕らえて、リフティングした。


「苗ちゃんと同じ学部に進むの?」

「止めた……おっと…経営に行くよ」

「経営?」

「プロジェクトには、…………多額の金が必要だよ。宮崎先生だって、寄付金集めるため………世界中………飛び回ってる。一応、親父の会社が出資してるけど、そんなんじゃ………足りない」

「そうなんだ…」

「プロジェクトが健全に運営されていくには、経営が……必要…っと。無駄遣いも多いよ。赤十字がどんな……金の使い方してる……か聞いたら、寄付す、る気、なくす……ぜ?」




陸玖がボールを奪いに来た。


「真咲がさぁ!」


陸玖が声を張り上げた。




「なに!?」

「スカウト断ったって聞いたときにー!」

「ああ!?」

「俺は本当にあきらめた!」




おおっと、ちくしょー取られた!





「何をーっ?」

「なにもかも!」





そうだった。

プロチームからスカウトが来てたんだった。

もちろん断ったけど。



再びボールが宙を舞った。




「なにもかもって、何だよーっ?」

「苗ちゃんのことも!サッカーのことも!ずっと仲間と一緒にいることも!自分が当然だとか、当たり前だとか思ってたこと全部!」




返事ができなかった。

俺の決断が、そこまで陸玖に影響を与えてたなんて思わなかった。



「俺だって『苗』って呼べる関係になりたかった!」



苗のことも……そうだった。

陸玖は苗が好きだったんだ。




「何も変わってねーよ!」

と、俺は言った。




「変わったよー!真咲は変わった!」

「どこがだよーっ」

「もう見てるものが違うよ!大人になった!」

「なってねーし!」



今度は陸玖が、ボールを止めた。




「苗ちゃんはさ、近すぎて気づいてないだけだって」

「あーっ?」

「真咲に敵うはずないよ」




汗をぬぐった。

遠くで子供が羨ましそうに、こっちを見てる。

手招きしたけど、逃げてしまった。



「こっちに来て良かった?」



うなずいた。


「良かったよ。苗のためだったけど、自分が分かったし、世界が近くなった」

「だったら、俺も報われるよ」



陸玖が大学三年で司法試験に受かり、

ワッダーパークの大学院へ来るのは………まだ先の話。
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