天才に恋をした
幸せはキオクの中に

44-1

どこの大学からスカウトが来るのか、発表されるのは八月になる。





帰国する前日、歩いて三十分くらいの場所にある大聖堂を見に行った。

もう夕方近くで、観光客もまばらだった。



とてつもなく高い天井と呼応して、十字架の光が上へ上へと伸びている。



二人で黙ってそれを見つめた。



ふいに、聞き慣れた鐘の音が空間を揺らした。



ずっと、ずっと、この瞬間が続いてほしい。

ちっぽけな人間が、二人生まれて、出逢って、ここまで来た。

今確かに、神とつながっているのを感じる。



だから……



いつの間にか、苗と唇を重ねていた。




すぐに消えてなくなる、この一瞬こそが、


永遠だと思う。




奇跡でも偶然でもない。

俺は天才に恋をした。
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