天才に恋をした

1-3

夕飯は、村瀬家ご用達の料理屋だった。

日本家屋が珍しいのか、ゆるキャラはあっけに取られていた。


「苗ちゃんのお父さんはねー、天才なんだよ。俺はそれに惚れちゃったわけ」


一通り自己紹介が終わると、親父が言った。



宮崎苗(みやざき なえ)

それが、ゆるキャラの名前だ。



「こんな片田舎の大学に、こんな凄い人がいる!」


ドンドンッ

親父は机を叩いた。


「宮崎教授に会った日は、オジサン眠れなかったんだからっ!」

「オッサン…興奮し過ぎ」


親父は農薬の会社を経営している。

取引先の紹介で出会った宮崎教授と意気投合したらしい。



「宮崎教授の夢を叶えるお手伝いがしたい!」



車で来たんだから、酒は飲んでない。

飲んでないのに、このテンション。



「その為に俺はこの仕事を始めたんじゃないかって、そこまで思ったわけだよっ!」



親父、ただの三代目じゃん。

しかも長男が継がないから、仕方なく自分が…っていう。



突っ込みたかったけど、黙ってた。

カニをムキながら、人の話を聞くのは難しい。



「要するに、宮崎教授は砂漠の緑化に成功するまで帰らねぇんだな?」

「そうだ」

「俺のムいたカニを盗るな!」
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