天才に恋をした
家に帰ると、珍しくリビングに苗がいた。

キッチンで右往左往している。



「なにやってんの」

「…コーヒー」

「こっちだよ」



俺は別の引き戸を開けてコーヒー豆を出した。

豆を前に、苗はポツリと言った。


「コーヒー豆」


…だから何だよ。



「豆を作るのに、サクシュされる子供の数は全世界に…」

「お前は一々、そんなことを考えてコーヒー飲むのか!」

「またチョコレートの原料となるカカオは過酷な奴隷労働によってなりた…」


俺は豆を元の位置にしまった。

苗があからさまに、ションボリする。

なんだコイツは。



「おい」

リビングを出て行こうとする苗に声をかけた。


「飲まないのか」

「豆から…どうやって」

「ミルで、ひくんだよ」

「ミル…」

「めんどくせーな。淹れてやるよ」


ふわりと苗の表情がゆるむ。

コイツは笑うったって、この程度だからな。

座ろうとしてるし。



「やり方覚えろよ」


苗は大人しく、キッチンに戻ってきた。
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