天才に恋をした
ミルの使い方とドリップの仕方を教えてやる。

俺は、はっきり言って上手い。



苗も素直に聞いている。

よく見たら、苗はもうパジャマ姿だ。



「お前、もう寝るんじゃないの?」

「寝ない」



時計を見ると、9時を回っている。



「今から飲んだら、寝られなくなるぞ」

「寝ない」

「寝ろよ」

「まだ寝ない」



そういえば夏休みに入って、母ちゃんと二週間くらい避暑に行った以外は、コイツ何をやってたんだろう?


コーヒーに付き合いながら、聞いてみた。


「別荘で何した?」

「勉強」

「は?…遊んだりは?」

「カブト虫をね…こうやってね、こうやった」


苗は手に乗っけて遊ぶフリをした。


「げ…よく虫なんか触れるな」

「クワガタもいた」

「俺も昔は木とか虫とか詳しかったけど」


突然、苗の動きが止まった。


「どうした?」


泣いてる…!

な、なんだ?



「勉強しなきゃ」

コーヒーカップを手に立ち上がる。


「は!?」

俺は立ち上がって、苗を追いかけた。



「なんで泣いてんの?」

「泣いてない」

「泣いてんだろ!」
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