Sugar&Milk

「あの……」

「付き合える男なら周りにたくさんいるじゃない! 山本さんだって、もう一人の同僚の人だって! なんで中山くん……」

「落ち着いて、ね?」

なだめようとする私に今度は相沢さんが泣きそうな顔をする。

「ババアって罵れるくらいの年上ならまだ奪えるのに、あなたなら難しいじゃん……」

「あの……大丈夫?」

一方的に怒鳴られて取り乱したいのは私なのに、まるで相沢さんが被害者かのような態度に戸惑う。

「先に好きになったのは私なの……」

「…………」

何を言ったらいいのか分からなくなる。彼女からすると私は好きな人を横取りした悪女に見えているのだろう。でも瑛太くんが選んでくれたのは私だ。私が嫌な思いをさせられる理由にはならない。

「あの、私は相沢さんよりも年上だし立場も違うけど、瑛太くんとは真剣に付き合ってます」

「それでも……告白しますから」

そう言って相沢さんは駅の構内を走っていった。残された私はその場で立ちすくんだ。
私はあんなに全力で瑛太くんに思いを伝える勇気は出ないかもしれない。自分の生活とか立場とか年齢とか、色んな障害を意識してしまう。将来や環境を考えないで付き合える彼女たちが羨ましい。
瑛太くんとしばらく会えないのは寂しいのと同時にほっとする。実家に帰っている間は相沢さんも瑛太くんに会えない。告白のチャンスは先延ばしなのだから。










フロア入り口のタイムレコーダーのパネルで『退勤』をタッチし、首から下げた社員証をかざした直後に更衣室のドアから山本と武藤くんが出てきた。その手にはコートを持っている。

「お疲れー」

「お疲れ様」

< 82 / 148 >

この作品をシェア

pagetop