ハイカロリーラヴァーズ
「おはようございます」

 後ろから声がした。振り向くと、医学部コースクラス担任の松河先生。

「あ、おはようございます」

 松河さとる先生。青司のクラス担任。
 たしか30代後半だったと思うけど、物静かな先生だ。熱血タイプじゃないけれど、話が分かりやすく、話し方も上手い。親身になってくれると評判だ。

 先日、保健室の前で鉢合わせした時は心臓が飛び出るかと思った。

 講演会や保護者説明会でお話もしてくれる。シルバーフレームのメガネ。すらりと背が高く、上品な男性だ……って、そんなこと言ってる場合じゃない。

 駐輪場に赤い自転車を入れていたあたしは、ロックするとサッカーボールのストラップが付いたキーをバッグに入れた。

「サッカー好きなんですか?」

「あ、いいえ。自転車、貰い物なので……」

 青司が付けていたストラップを付け替えないでそのままにしていたから……変かな。

 松河先生は、電車で来ている。入口にはぐるっと回らないといけないので、ここにはたまたま通りかかったのだろうか。

「自転車の池田さん見つけたので」

「はぁ」

 あれ、あたしちゃんと鍵かけたっけ? 自転車を再び見てみる。かけた。大丈夫。

「ちょっと、良いですか?」

 ああ、話があったから呼び止められたのか。早く言ってくれれば良いのに。

「どうかしましたか?」

 なにやら言い淀んでいるような松河先生。少し周辺を気にするように視線を動かして、口を開く。
 
「うちのクラスに、ちょっと不真面目な生徒が居まして」

「はぁ」

 不真面目な生徒……まぁそういうの何人か居るから……少し体を堅くしながら続きを待った。

「その生徒、どうやら予備校の人間と……個人的に会っているようなんですよね」

 息を止めて、顔に出ないように努めた。なんのことだろう。どうして、あたしにそんなことを言う……? 女の子かもしれない。女子生徒が、たとえば講師と、その……。

「そう、なんですか」

 ちょっと驚いたような顔をしてみせた。

「ええ」

 先生はゆっくりと、かけている眼鏡を指で直し、鞄の手を持ち替えた。

< 96 / 139 >

この作品をシェア

pagetop