いっぱい好きになってもらうから。
 いつもそばにいてふざけ合ってばかりだったタツキへの私の想い。親友のメグに先にタツキへの想いを打ち明けられてしまってから、私もタツキのことが好きだという気持ちを、メグにもタツキにも――誰にも――悟られないようにしてきたつもりだ。今さらコウタに気取られては困る。

「や、やだなあ、何言ってんの?」

 そう言ってごまかすように一歩足を踏み出したとたん、行く手をふさぐようにコウタが壁にドンッと片手をついた。突然のことにびっくりして立ちすくむ。コウタの方を見たとたん、彼がずいっと迫ってきて、私は思わず一歩後退った。ショートブーツのかかとが壁に当たり、それ以上下がれない。背中に触れたスタジアムのコンクリート壁の冷たさが、コートを着ていてもわかる。

「ごまかすなよ」

 コウタの目は真剣だった。何でも見通してしまいそうに私をまっすぐ見つめている。でも、この想いは誰にも知られるわけにはいかないの。

 私は視線を地面に落として言う。

「ごまかしてないよ」
「ごまかしてる」
「そんなことない」
「それなら、俺の目を見てもう一度言ってみろよ」

 コウタの鋭い口調に、私はおずおずと視線を上げた。シャープな顎のライン、引き結ばれた薄めの唇、すっと通った鼻筋。その上にはいつも見慣れた意志の強そうな目がある。

 そう思ったのに、視線がぶつかった彼の目は、深く切ない色をしていた。

「アオイがタツキのことを好きだってことは、ずっと気づいてたよ」

 コウタの声は、何かを耐え忍んでいるかのようにとても低かった。
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