て・そ・ら


 一応そう聞いてみた。赤ちゃんじゃないんだし、足を骨折したわけでもない。だから一人で保健室まで行けるってことは勿論判っている。だけど、ほら、あたしがぶつかったわけだし。プリントをかき集めるあたしをしっかり見ていた横内の目を、実はあたしもちゃっかり見ていたのだった。

 やっぱり薄情だったよね、ごめんなさい。

 せめてもの罪滅ぼしに、必要ならば保健室まで着いていくことくらいはする。

 だけど彼は手をヒラヒラと振った。そしてゆっくりと歩いていく。階段に向かわずに真っ直ぐ行ったということは、やっぱり保健室に向かっているのだろう。

 あたしは自分も打ったお尻を撫で撫でしながら、その後姿を見送ったのだった。


 
 あたしは佐伯七海(さえき・ななみ)という。

 現在17歳で、大人のいうところの思春期真っ只中の高校2年生。

 好きな歌手の女らしさに憧れて髪を伸ばしてはいるが、一向に手入れする情熱がわかないままでダラダラと延ばしていて「綺麗にしないなら切りなさいよ!!」て母親の大ブーイングを喰らっている実に冴えない外見をしている。

 平均的な身長に、平均的な体型。平均的な成績と、平均的な顔をしているのだ。

 一般的な、標準的な、大して人に自慢出来ることなどない、そこら辺~の、女子高校生。

 つまり、その他一名だ。ワンオブゼム。集合写真には必ず端っこの方へうつり、名前を忘れられることはないけれど真っ先に浮かべてもらうほどでもない、という程度の女の子。劇の配役で言えば「村の子2」とか「3」とかで、間違っても主役や悪役にはならない。


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