女子力高めなはずなのに
「ねえねえ、やっぱり髪はおろして行った方がいいかな?まとめてるの、変じゃない?」

「全然変じゃないよ」

「……やっぱり、こっちの服の方がいい?」

「今着てる服が似合ってるよ。……ねえ、さくら。大丈夫だから。深呼吸してみな?」

春の穏やかな日差しを背に、清楚なワンピースを着たさくらが不安げにじっと俺を見ている。そんなさくらが可愛くて、手を伸ばして頬に触れた。

さくらは朝から落ち着きがない。

今日は俺の実家に行くから、当然と言えば当然なんだけど。特に彼女は小心者だから、朝からビビりまくっている。

この調子では、実家を見たら驚いて気絶するんじゃないかとちょっと心配になる。

あの家に近づかなくなって4年も経ってしまった。でも、いつまでもあの家の問題から逃げ回っているわけにはいかない。

だからこのたび思いきって、「婚約者を紹介する」と理由をつけて実家に行くことにした。

うちはいわゆる「地元の名士」といわれるヤツで、あの土地で古くから続く家系だ。母親は本家の長女で、父親は婿養子。父親は一応実家が経営する会社の社長だが、存在感と決定権はほとんどない。

既に離れた土地で根を張って生きている俺は、あの家を継ぐつもりはない。でも、心のどこかで兄貴に対する負い目を感じている。

しがらみに囚われて身動きできなかった兄貴。存在を無視されて糸が切れた風船みたいに浮遊していた俺。

生きる道の交わらなかった俺たちが助け合えたとは思えないが、死ぬほど追い詰めた原因には自分も含まれているのではないか。

だから、兄貴に代わって俺が継ぐべきなんじゃなかろうか、と。
< 294 / 325 >

この作品をシェア

pagetop