キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
1ヶ月のうちの半分はうちを留守にしている俺だが、自分の住処は、自分なりに住み心地良い環境に整えているつもりだ。
今まで数多くの殺人現場を見てきた俺としては、自分が殺されたときに室内を捜査されることを思えば、おのずと掃除や片づけをしておこうという気になる。
ま、この場合、殺られた後で室内を荒らされれば、どうしようもねえんだが。

同様の理由で、万が一自分が解剖されると想定したら、身だしなみにも気を配るようになるってもんだ。
死んだ後にまで「野田はめちゃ派手なガラパン履いてた」なんて寒いギャグを提供するのは、マジでシャレになんねえし。

だから俺は、「誰に見られてもいい」と思えるものしか着ない。
そこまで詳しく聖には言ってねえが、「ひーちゃんにならパンツ見られてもいい」ってのは、俺の本心だし。




「洗濯機と乾燥機を貸してくれたお礼に、ご飯を作る」と申し出てくれた心優しい聖だが、理由はそれだけじゃなく、俺が腕を怪我しているから、メシ作るのが不便じゃないかと見越してそう言ってくれたんだと俺は睨んでいる。
加えて、自分にできる「礼」はと考えて、すぐに思い浮かんだのが、料理だったと思われる。

だから俺は「腕怪我してよかった」と言う代わりに、「やったぜ」と言った。
言った後で後悔しているような顔をした聖が「やっぱりやめる」と言う前に、逃げ道塞ぐため。
洗濯機を通して近づいたチャンスは有効に使わねえとな。



< 26 / 56 >

この作品をシェア

pagetop