キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
俺はテレビを持っているが、ニュース番組やワイドショーは全然観ない。
世の中どれだけ不況なのか、世界の争い事、有名人、ってか他人のゴシップを知ったところで気が滅入るだけだし、殺人や強盗といった事件には普段関わってることだから、情報規制されたニュースを見聞きしなくても、それ以上に知ってるしな。

俺が大型テレビを持っているのは、好きなアクション映画を、できる限り臨場感あふれる感覚のまま観たいからだ。
そして、1日24時間、洋画のサントラばっか流れているラジオを、時たま聞くためでもある。

こないだそのラジオを聞いてたときに流れていた曲を聖が好きだと分かったので、聖の洗濯機と乾燥機を買いに、再び家電屋へ行った帰り道、その曲が主題歌の映画のDVDを見つけて買ったというわけだ。

聖は俺がよく使っているアームチェアが気に入ってるようなので、それを観やすい位置に移動させて聖をそこに座らせ、俺はテレビの正面に置いてある二人掛けのソファに座ると、さっそく映画を観始めた。

一度映画館で観たことがあると言っていた聖だが、熱心に見入っている。
とてもリアルな大自然の映像が出たとき、聖はまた、羨望のため息をついた。

「・・・いいなぁ、こういう生活」
「俺、小屋くらいの大きさのログハウスに住みたいんだよなぁ。森の中程度で、街とかスーパーには車で行ける距離くらいのとこ」
「あぁ分かります!まだ独身の頃だったから、10年以上前の話ですけど、丘の上にポツンと建つ、海が見える小さなカントリーコテージの写真を見て、わぁいいなぁ、こういう場所で、こういう可愛らしいおうちに住みたいなぁって思ったことがあったんですよねぇ。で、近くに小さなカフェを開いて、軽食とお菓子を自分で作って・・・なんて。私ったら、そんな・・・夢みたいなこと思い出して・・・バカみたい」と言った聖は、今にも泣きそうな顔をしている。

まるでそう考えた自分が、有罪だとでも言わんばかりに。

「夢見てもいいじゃねえか」
「え。で、でも私なんか、そんな資格ない・・・」
「いいんだよ。生きてる限り、夢見てもいいんだ」
「わたしっ・・・私は、死にたくても死ぬ勇気がないから、毎日を何となく生きてるだけ。ただの意気地なしなの!」

ついに泣き出した聖を俺は軽々と抱き上げると、ソファに座って聖を膝に乗せた。
「はっ、離して!」と聖は言ってるが、俺のシャツを命綱のように握ってるのは聖の方だから、俺は聖を離さなかった。

「おまえは強い」
「つよくな、い・・・」
「いーや、強い。おまえは生きることに絶望してても、まだ生きることを諦めてない強さを持ってる」
「そんなこと、ない」
「俺がそう言ってんだ。間違いねえ」
「根拠、ないのに・・・うぅぅ」
「ああ。自信あるからな」
「また、そんな」とつぶやいた聖は、やっと笑ってくれた。

俺は強い女が好きだ。
逆境にもくじけない強さがある女、それが聖。

必死にもがきながらも懸命に生きる姿は、たとえその様子が周囲には不器用に見えても、俺はキレイだと思う。

「ひーちゃん。自分の存在を否定するな。自分が生きてることに罪悪感じる必要はない。自分の存在意義を認めろ。“ここにいていい”という思いを持っていいんだ」
「う・・・」
「もっと自分を好きになれ。自分のことが好きだった頃を思い出せ。大丈夫、おまえならできる」

俺が見込んだ女は、そんなにヤワじゃねえはずだから。


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