キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
好き (最終話)
『・・・ねえおかあさん、なんで“ひじり”ってなまえ、つけたの?』
『お父さんとお母さんは、生まれて来る赤ちゃんに“聖”っていう字をつけたかったの。そして生まれてきてくれたのが、聖なのよ』
『ふ-ん。わたし、このなまえきらい。また“ひじき”っていわれたしー』
『あらあら』
『おかあさんまでわらってる!わたし、もっとかわいいなまえがよかった』
『聖はとっても可愛いよ・・・』

ハッと目が覚めた私は、ベッドから上体をガバッと起こした。

「どこ行くんだ」
「・・・仕事」
「今日は休めないのか?」
「休んだらその日分のお給料が入らない。それに休む理由はないし。じゃ」と私は言うと、ベッドから下りて、その辺に散らばっている服と下着と靴下を拾っては身につけ始めた。

「じゃー職場まで送る」
「いえ、結構です」
「今8時過ぎだが。マジでいいのか?」
「えっ!!」

仕事は8時半から始まるのに・・・なんてこと!
もう時間の感覚が全然ないのは、昨夜ほとんど寝てないせい?
とにかく、バスに乗っていたら確実に遅れる。
・・・仕方ない。

私は渋々、そして野田さんに頼むくせに、顔を見ないで「おねがいします」と言った。




野田さんのおかげで、私はどうにか時間ギリギリに職場へ着くことができた。

「ありがとうございました。それじゃあ。さよなら」
「聖」

車から降りようとした私の腕を、野田さんが優しく掴んだ。

「あの。仕事・・・せっかく送ってもらったのに、遅れる・・・」
「これ以上俺とはつき合えねえって言うなら、俺は受け入れるしかない。だが、誰かをここまで好きになったのは俺も初めてなんだ。俺・・・おまえが思ってるほど器用に生きてねえよ。40になっても、大事にしたいと思った女を傷つけてるバカ野郎だ」
「・・・・・・そうですね・・・あ!鍵」
「おまえが持ってろ」
「のださ・・・」
「持っててくれ」

仕事が始まる時間が迫ってることもあって、私はひとまず野田さんちの鍵を持っておくことにした。
今日の帰りがけにでも郵便受けに入れておけばいいか。
あぁ、それから!

「お皿、すみません。結局後片づけもしないままで。弁償しま・・・」
「いいよ。まだ皿残ってるし。今日俺完全非番だから、帰って片づける」
「・・・そうですか。じゃ。さよなら」

今度は野田さんに止められることもなく車を降りた私は、急いで職場のビルの中へ入っていった。


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