キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
幼児誘拐連続殺人犯が捕まったというニュースで、職場はもちきりだった。
私がその事件の参考人として、昨日警視庁へ「任意同行」したことなんて、誰一人知らないのはありがたい。

今までどおり、私はこの職場内ではベテランの部類に入るけど、目立たない存在で、仕事のこと以外で話す人もいない。
機械的に電話応対をしているのも、今までどおり。
だけど頭の中で、これからのことばかり考えていたのは、今までどおりじゃなかった。



今朝、ドタバタと出てきた私は、近くのコンビニへお昼を買いに行った。

私のことを凶悪な事件の犯人かもしれないと一瞬でも疑っていたから、自分の本職は刑事だと言ってくれなかったことに対して、私はまだ怒っているし、野田さんのことを許せてないと思う。
それでも私は野田さんのことが好き。

だけど、私はまた「野田さん」と呼んでいる。
昨夜あんなに抱き合っていたときも、あの人のことを「野田さん」と呼んでいた。

私は「和人さん」と呼べない壁を、自らつくってしまっていた。

これからどうしようか。
野田さんとはやっていけない・・・よね。
だから野田さんが引っ越す前に、私も引っ越す?
でもどこに。
なんて考えながら店内をウロウロ歩いていたとき、ある雑誌に目が釘づけになった。

私は「和みカフェ特集」と書かれた雑誌を手に取ると、急いでお昼のお弁当を選んでレジへ行った。





お昼を食べながら、「和みカフェ特集」を一気に読んだ私は、仕事が終わった後、その足で本屋へ行くと、自分が好きだと思えたインテリアとファッション雑誌を計5・6冊、そして線が入ってないA4のノートを1冊買った。

雑誌って意外と重たい・・・。
だけど、私の足取りはとても軽くて、心は弾んでいるのが自分でも分かる。

なんか今の私、目が覚めたような気分だ。


いそいそと家に帰った私は、晩ごはんを適当に作って食べながら、買ってきた雑誌を読んだ。
その途中で、野田さんちの鍵をまだ持ってたことに気がついた私は「あ!」と思ったけど・・・結局郵便受けに入れることもなく、野田さんちへ返しに行くこともしなかった。

私が持ってるのはスペアキーだと言ってたし。
野田さんの部屋、明かりがついてたけど、晩ごはん食べたのかな。
と一瞬だけ考えた後、私はまたすぐに雑誌を読み続けた。

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