キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
番外編:キャッチ・ユー (野田和人視点)
正月に、末の弟の真吾から、ゴタゴタしていた彼女とやっと一緒になれたと報告を受けてた俺は、それから3週間以上経って、ようやく真吾たちに会いに行くことができた。

それがメインだったことは間違いないんだが、なっちゃんにあげてもいいと渡していた名刺を返してもらうことも、会いに行く目的の一つだった。
もちろん、俺の番号は登録してもらっといても構わない。
だが俺が警察の人間であることをまだ聖には言ってねえから、おまえたちも言うなと、真吾には事前に口止めしておいたから、なっちゃんにも伝わっているはずだ。

自分が惚れこんでる彼女が、もしかしたら連続殺人の犯人かもしれないと、1パーセントでも疑ってる俺自身に、すげームカつく。

やっぱり俺は、なつのさんや敷島に言われたように、この事件の捜査メンバーから外れたほうがいいのかもしれない。
だが、一刻も早く犯人(ホシ)をあげて、聖の疑惑を晴らしたいという気持ちのほうがもっと強かった俺は、その「提案」を退けた。

聖は今、なっちゃんとキッチンで料理してるところだ。
俺はトイレへ行った後、ついでに様子をのぞきに行った。

二人は尽きることなくしゃべりながら、手はちゃんと動かして料理をしている。
思ったとおり、あの二人は相性が良さそうだ。
やっぱ兄弟似てる傾向があるせいか、結局聖となっちゃんは、似たもの同士みてえだし。
とは言っても、なっちゃんや義妹の恵美子ちゃんを自分の女にしたいとは、全然思わねえけど。

女って器用だなーと感心しながら見ていた俺は、リビングへ引き返そうとしたが、そのとき聖が「神様に慈悲心なんてないと思ってた時期もあったけど、誰かのせいにすることを選んでいたのは自分だと気がついた」、「人はみんな違う人生を歩んでいるという意味で、不平等だと思う」と言ったのを聞いて、ピタッと立ち止まった。

犯人が残したメッセージとほぼ同じ言葉を使っていたことに、俺は正直驚いたが、同時に、聖はシロだと確信できた。
なぜなら、聖は「神」ではなく、「神“様”」と言ったから。
なっちゃんと話し込んでいたから、わざとじゃねえ。
普段思っていることが、そのまま言葉として出ている。
何より、犯人はいまだに「神には慈悲心がない」と思っているが、聖はそう思っていない。
それも聖の素の思考だ。

腹の底から嬉しさが込み上げてきた俺は、つい聖を抱きしめた。
なのに・・・・・・。

敷島は、事件の参考人として聖を警視庁へ連行した上、俺を捜査メンバーから外した。


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