お持ち帰りしていいですか?
「……じゃあ、俺は?」
相変わらず至近距離にある藤澤君が小さく声を落とした。
その真剣な瞳に声が詰まる。
「…なに、言ってんの。酔ってる?」
いつものぼんやりした藤澤君はいない。
目の前にいるのは……
「酔って、ない。澪さんは、ずるい」
藤澤君の長い睫毛が揺れる。
その声に、その表情に、心臓が甘く痺れたような感覚が襲った。
「俺の気持ち、知ってるでしょ。あなたが他の男に引き寄せられて平気でいられると思ってる?」
目の前にいるのは、ただの後輩でも、年下の可愛い子でも、日頃無口で、おっとりとした雰囲気を持つ藤澤君でもない。
「好きだよ、澪さん。あなたを閉じ込めてしまいたい」
そう言った後、ちゅ、と唇が触れた。
啄ばむ様なキスに私は少し笑う。
「藤澤君、ドキドキする」
こんなにドキドキするのは私が君を好きだからなんだけど。
分かってるの?
後輩の女の子が君のこと好きなのとか、取引先の女子社員が君と話したくてわざわざ時間を合わせたりしてるのとか。お酒の席の戯言しかない私の方がずっとライバルが多いんだけど。
「私も藤澤君を閉じ込めたいよ」
完全に『男』の顔をした藤澤君が一瞬目を開いて、それから視線を逸らした。
僅かに赤く染まる頬が愛しい。
今夜、お持ち帰り、してもいいですか?
fin