裏腹王子は目覚めのキスを
トーゴくんは物のあいだをすり抜けて、段ボール箱で半分埋もれているクローゼットの扉をスライドさせた。
「お、あったあった。これを引っ張り出して広げれば寝られるだろ」
弾んだ声で振り返り、笑みを凍りつかせる。
クローゼットの前には防壁のように段ボール箱が詰まれているし、部屋の中にはごちゃごちゃと物が置いてあって、簡易ベッドを広げるスペースなんて見当たらない。
「……ダメか」
「あの、トーゴくん、わたし」
「しゃあねえ、俺のベッドでいいか」
「ええ!?」
「こっち」
わたしの反応などお構いなしに、今度はリビングへと戻っていく。
ニットに包まれた背中は相変わらず細長く、百七十四センチだった高校時代と身長もそう変わりはなさそうに見える。
わたしも中学三年生のときから百六十センチのままだから、目の高さには昔と同じトーゴくんのきれいな襟足があった。
彼からすれば、わたしは実家のとなりに住む幼なじみで、小さな頃から遊び相手をしてきた妹みたいな存在なのだ。
たとえ十二年のブランクがあったとしても、身長差と同じように、ふたりの関係は変わっていない。
「ここ、寝室な」
リビングを突っ切って、さきほどトーゴくんが電話をしていた部屋に通される。
意外にもこざっぱりとしたその部屋の真ん中には、セミダブルのベッドがどっしりと鎮座していて、わたしは焦った。