裏腹王子は目覚めのキスを
幼なじみが男なのか女なのか、どういう人間なのか、まったく気にならないらしい。
一度は付き合っていた彼女なのに、わたしの周囲にはまったく関心がないみたいだ。
「それじゃあ、あとはこちらで求人案件を探して、後日連絡します」
「はい、お願いします」
「各案件を担当してる営業から電話が行くと思うから」
「健太郎くんからじゃ、ないんだ?」
席を立ちながら尋ねると、彼は資料を整えて無感情に言う。
「僕の案件でマッチすれば、僕から連絡する」
「……わかりました」
知り合いでも、健太郎くんが担当すると決まってるわけじゃないのか。
わたしは書類をバッグにしまい、頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「うん」
健太郎くんが先立って、廊下を進んでいく。窓の外に広がる空には水彩で描いたような雲がいくつも浮かんでいた。はるか向こうに雨を降らせそうな灰色の塊が見える。
湿った空気に覆われる、六月。
あれ、そういえば今週だ。
思い出しているあいだに、エレベーターホールにたどり着く。
健太郎くんがボタンを押して、わたしを振り返った。
「それじゃあ、また」
「あ……うん、よろしくお願いします」
上ってきた箱に乗り込むと、健太郎くんは深く腰を折って、頭を下げた。