裏腹王子は目覚めのキスを
 
 * * *

分厚い雲が垂れ込め、空気は湿気を含んで肌にまとわりつく。
洗濯物の乾きが悪くなったから、干す時に今までよりも広く間隔を開けた。

関東地方は昨日、梅雨入りをしたらしい。

 
派遣登録センターで健太郎くんと久しぶりに会ってから、五日が経っていた。
 
あちこちの窓を開けて、じめついた空気が滞留する部屋に、風を入れる。

「よーし、今日は頑張らなきゃ」
 
トーゴくんのおかげで一歩、社会に足を踏み出すことができたせいか、ここのところ気持ちが前を向いている。
といっても、ただ派遣の登録をしただけだけれど。

それでも今まで家の中でじっとしていたことを考えれば大きな進歩だった。
 

部屋の中を片付けて、掃除機をかける。
 
トーゴくんは今仕事が少し落ち着いているらしく、ここのところ夜の九時前に帰宅して夕飯を食べるようになっていた。

最近知ったことだけど、彼は株の運用をしているらしい。
早く帰宅した日はお酒を飲みながらテレビを見ていることもあるけれど、自室でパソコンに向かっていることが多かった。
 
不思議なのは、少しも女性の影がないことだ。
 
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