裏腹王子は目覚めのキスを
「な、なんで、トーゴくんが」
わたしの慌てぶりなんて目に入らないように、彼はゆらりと身を起こし、もう一度あくびをした。
「あー、お前があんまり気持ちよさそうに寝てるんで、つい」
「ついって……」
開いた口がふさがらない。
眠ってる女を、『つい』後ろから抱え込むように寝てしまうって、そんなことある?
信じられないという顔で見ていたせいか、トーゴくんは弁解めいた口調で言った。
「いや、なんか、猫に寄り添うような気持ちで」
「ね……ねこ」
「お前、ほんと癒されるわ」
はは、と笑うトーゴくんがふざけているのか本気なのかわからなかった。
こっちは死ぬほどびっくりしたっていうのに……。
トーゴくんの乾いた声と窓から入り込んだ湿った風が、薄暗い室内を漂う。
心の中で深いため息をつきながら、わたしは電気をつけた。頭上から明かりが注ぎ、ラグに胡坐をかいた王子様が色鮮やかに浮かび上がる。
壁の時計に目をやると午後七時すぎを指していた。
「何時に帰ってきたの?」
放り出してあった洗濯物を片付けながら聞けば、王子様はまだぼんやりした様子で答える。
「あー……30分前くらい? 思ったより早く上がれたんだよ」
「そうなんだ……あ、お肉焼かなきゃ!」
大事なことを思い出して、わたしはキッチンに駆け込んだ。
ダイニングテーブルを大急ぎで片付け、冷蔵庫で冷しておいたスープとサラダを運ぶ。
「うっわ、なんだこれ、すげーな」
取り皿にグラスにカトラリー。いそいそとテーブルをセッティングしていると、トーゴくんはネクタイを緩めながら近づいてきた。