裏腹王子は目覚めのキスを

「なんで今日、こんな気合入ってんの」
 
テーブルに並ぶ料理を眺めながらあきれたように言うから、わたしはむっとした。

「なんでって」
 
焼き上げてカウンターに置いておいたホールのケーキを、トーゴくんに突き出す。カットしたイチジクを花びらのように円形に飾り付けたチーズケーキだ。

「ほら、これ」
 
ケーキの真ん中には二本のロウソクが立っていた。
数字の3と0を象った、青いロウソクに、王子様が「げ」と顔を歪める。

「トーゴくん、三十路おめでとうー!」
 
満面の笑みで言ったのに、王子様は苦い顔をした。
 
ふたりがけの狭いダイニングテーブルに置ききれないくらいのお皿を辟易したように見つめ、ため息をつく。

「はりきりすぎだろこれ。食いきれねーよ」
 
唇を曲げた嫌そうな表情とぶっきらぼうなセリフ。でも、それが照れ隠しだということくらい、わたしはお見通しだ。

「ね、座って」

「いや……先に着替えて」
 
シャツのボタンを外そうとする手をあわてて押しとどめた。

「いいからいいから、せっかくだからレストランみたいにしようよ」

「はあ?」
 

テーブルの支度をすべて済ませ、あとはスペアリブが焼きあがるのを待つばかりになると、わたしは部屋でお気に入りのワンピースに着がえた。

パーティーみたいなゴージャスな格好はできないけれど、せめて気分だけでもと、普段下ろしてばかりの髪をサイドで編み込み、ひとつにまとめる。
 
リビングに戻って訝るトーゴくんを強引にテーブルに座らせ、ダイニングの電気を消した。

< 106 / 286 >

この作品をシェア

pagetop