裏腹王子は目覚めのキスを
「冷蔵庫とか風呂とか、部屋のもん勝手に使っていいから」
「ま、待って。トーゴくん、どこ行くの」
「約束があんだよ」
「えっ」
そういえばと、わたしがインターホンを押したとき、まるでタイミングを見計らったように玄関のドアが開けられたことを思い出す。
危機管理能力の高いトーゴくんが、なんで訪問者をモニターで確認しなかったのかなと不思議ではあったけれど、あれはどうやら彼が出かけるタイミングだったせいらしい。
「明日の昼には帰るから、なんかあったら電話して。番号は知ってんだろ?」
「あ、うん、昔と変わってないなら……」
「変わってねえから。じゃあな」
「あ……」
声をかける間もなく玄関の扉が重々しく閉まる。家の中が急に静まり返って、わたしは自分が立っている場所を改めて見下ろした。
白いフローリングの廊下にも、ダンボール箱やら雑誌やらが積まれていて、お世辞にも片付いているとはいえない。
部屋の主が不在の雑多な部屋にひとりきりで残されて、わたしは空気が漏れてしぼんでいく風船のように、ゆるゆるとその場に座り込んだ。