裏腹王子は目覚めのキスを
自宅まで押しかけてきた女の子が、玄関先で泣いて叫んでトーゴくんをひっぱたいたのだ。
駆け出していく彼女の背中を追いかけることもせず、彼はただ疲れたようにため息をついていた。
中学から下校したところでそんな場面に出くわしてしまったわたしは、隠れることもできずに道路の真ん中に突っ立っていた。
トーゴくんはわたしに気が付くと、悪びれる様子もなく笑顔を見せたのだ。
『よお、バカ子』
女の子を泣かせたばかりの酷薄なまでに整った顔に浮かべたのは、女の子たちに向ける如才無い笑みとはどこか違う、いたずらな微笑み。
わたしは何も答えられないまま、古いコーヒー豆を噛み砕いたような、ざらりとした感触と苦味を胸の奥に感じていた。それから、ほんのわずかな甘味も。
トーゴくんは女の子に本気にならない。
トーゴくんは一人の女の子には縛られない。
トーゴくんの心を手に入れることができる女の人は、いない。